ジンのベーススピリッツの製法:ベーススピリッツの原料は?
前回こちらの記事で書いたように、ジンは一般的に次のような流れで造られます。
今回はジンのベーススピリッツに関して少し深掘りした内容となります。
ベーススピリッツとは?
ジンのベーススピリッツ(またはニュートラル・スピリッツとも呼ばれる)は、アルコール96%前後のもの。多くのブランドでは他社から購入したものを使用していますが、自社で製造する場合、基本的には以下の順序で造られます。
原料→糖化→発酵→蒸留→ベーススピリッツ
ベーススピリッツの原料には小麦やトウモロコシなどの穀物ですが、カルヴァドスの産地ではリンゴを使ったジンも造られています。
ジンの場合、一般的には製品を特徴付けるのはボタニカルであるため、そのベースとなるスピリッツは、クリーンで純度の高いものが望まれます。より純度の高いものを用意し、それに加水することで、よりボタニカルの香味を抽出しやすいアルコール度数にします。
ベーススピリッツの製法
ジンやウォッカ、ウイスキーなど一般的な蒸留酒の製造工程は次のような流れです。
①糖化
最初に、農作物由来の素材のでんぷんを糖へと分解する糖化を行います。
②発行
その糖を酵母によって発酵させます。これによりアルコール度の低い「モロミ(ウォッシュ)」が出来があります。
※モロミを搾ったものが醸造酒と呼ばれるお酒です。米ベースであれば日本酒、ブドウベースであればワインになります。
③蒸留
アルコール度数が低いモロミを蒸留器に入れて加熱。気化したアルコールを集めて冷却させたものが「蒸留酒=スピリッツ」となります。ジンの場合はこの蒸留の段階でスピリッツのアルコール度数が96度前後まで高められ、クリアで風味にクセがない中性のアルコールが出来上がります。これが「ベーススピリッツ(ニュートラル・スピリッツ)」と呼ばれるものであり、ジンのベースとして使用されるスピリッツです。
ベーススピリッツ製造に用いられる蒸留機
ジンの蒸溜には
①ベーススピリッツを作るための蒸溜
②ベーススピリッツにボタニカルの風味付けをするための再蒸留
という2ステップの蒸溜が存在します。
それぞれの工程で使われている蒸留機が異なります。
ベーススピリッツ製造の際には「連続式蒸留器(コラムスチル)」と呼ばれる蒸留器が使用されています。これにより一度の蒸留で90度以上のスピリッツを精製することができます。アルコール度数が96度まで高くなると無味無臭に近いものが出来上がります。
その後、ベーススピリッツにボタニカルを加えて再蒸留する際には「単式蒸留器=ポットスチル」が使用されます。ボタニカルの風味が飛ばない程度に70度前後まで蒸留されます。
ベーススピリッツは誰が作る?
特にEU圏内では顕著なのですが、多くのジン蒸溜所はベーススピリッツを自社生産せず専門の製造業者から購入しているそうです。ベーススピリッツ専門の蒸溜家も多く存在しています。
ベーススピリッツの製造には糖化や発酵など醸造設備も必要となるため、小規模のジン蒸溜所にとってはベーススピリッツとボタニカル用で違う種類の設備や蒸留機を用意するのもかなり負担となります。ベーススピリッツをその様なメーカーから調達することでかなりコスト面においてメリットがあります。
ジンのベーススピリッツに使用されている原料の種類は?
ジンに使用されているベーススピッツの種類は様々です。一般的なものから個性的なものまで紹介していきます。
ジンのベーススピリッツはアルコール度数96度前後まで高められるため、ほとんど無味無臭ですが、それでも原料によって様々な個性がでます。
グレーンスピリッツ
ジンのベーススピリッツは一般的に農業由来ですが、一番メジャーなのが「グレーン=穀物」から作られる「グレーンスピリッツ」です。このスピリッツは、風味がよりクリアでボタニカルの邪魔をしないという特徴があります。
穀物といっても様々な種類があります。具体的には下記の穀物が一般的です。
小麦(ウィート)
ジンのベーススピリッツの原料として最も多く使用されている原料です。ボタニカルの邪魔をしないクリアなスピリッツに仕上がります。
大麦(バーレイ)
風味は軽やか。小麦の次にジンのベーススピリッツに使用されている原料です。
麦芽(モルト)
麦芽を発芽させたもの。ウイスキーの原料としても有名ですね。大麦よりもより甘さが強く風味も独特になる傾向にあります。
とうもろこし(コーン)
ジンに甘い風味を与えることができます。
ライ麦
酸味を含んだ仕上がりになり、穀物由来のベースとしては最も個性的な原料といえるでしょう。
お米(ライス)
甘味とマイルドさが特徴的な原料。「季の美」を作る京都蒸溜所がお米をベーススピリッツに選んだことから、昨今では日本産のクラフトジンに多く使用されています。
穀物以外のベーススピリッツ原料
メジャーな穀物由来の原料以外にも様々な個性的な原料が使用されています。それもまたジンの面白いところですね。
ぶどう(グレープ)
フランスやイタリアなどワイン造りがさかんな地域ではぶどうが原料として使用されることもあります。フローラルでフルーティーな香り立ちが特徴的な仕上がりとなります。
りんご(アップル)
りんごの醸造酒であるシードルやりんごの蒸留酒であるカルヴァドスの生産者もジンを作ったりしており、果実由来の原料としては人気のベースです。フルーティーさと酸味が特徴的な仕上がりとなります。
じゃが芋(ポテト)
アルコール度数を高めることでジャガイモの不純物や濁りを除去し、重厚なフレーバーに仕上げる事ができます。
ジンのベーススピリッツまとめ
ジンといえばその風味の特徴である多種多様なボタニカルに注目されがちですが、その前のベーススピリッツの種類に目を向けてみるのもまた楽しみのひとつですね。ベーススピリッツとボタニカルの組み合わせを検証してみることで新たな発見があるかもしれません。
次回はボタニカルの種類について深掘りできればと思います。